むかしむかし

 

ある雪深い里に

おじいさんとおばあさんが すんでいました。

 

たいへん貧乏でしたが たいへんよい人でした。

 

ある日

おじいさんは たきぎをせおって 町へ売りに出かけました。

 

冬のさなか でしたから 雪が あとからあとから

ふりおちていました。

 

はく息も こおってしまいそうです。 

 

 

 

しばらく 歩いて行くと

ばたばたっ という音が しました。

 

ばたばたっ  

 

また きこえます。

 

「なんだろう」

 

おじいさんが 近づいてみますと

一羽のつるが わなにかかって もがいているのでした

 

 

 

かわいそうに思った おじいさんは 

つるを わなから はずしてやりました。

 

つるは ばたばたと まいあがると

こうー こうー と

うれしそうにないて とんで行きました。

 

 

 

その夜

家へ帰ると おじいさんは おばあさんに

つるを たすけたはなしを きかせました。

おばあさんも

「それは よいことを なさいました。」

と よろこんでくれました。

 

その時です。

 

とんとんとん

 

戸をたたく音が します。

 

「ごめんください ごめんください。」

 

こんな雪の中を だれだろう と

おばあさんが 戸を あけてみますと

そこに ひとりの娘が 立っていました。

 

「旅のものですが この雪で こまっています

 今夜ひとばん とめてください。」

 

雪のように白く 真っ黒な髪と やさしそうな目をした

うつくしい娘でした。

 

 

 

おじいさんとおばあさんは

さっそく 娘を 火のそばに すわらせると

あついおかゆを たべさせました。

 

いろりの火は 赤々と もえ

あたたかいひかりが 家の中を つつみました。

 

外では 雪が しんしんと ふりつづいていました。

 

 

 

つぎの朝

 

おじいさんとおばあさんは おきてみて びっくりしました。

 

もう いろりには 火がもえていました。

家の中は きれいにそうじされ。

ごはんのよういも できていました。

 

「おじいさん おばあさん おはようございます。」

 

赤い たすきをかけて せっせとはたらいているのはは

きのうの娘でした。

 

 

 

その日も 雪でした。

 

その次の日も また次の日も 雪は ふりつづきました。

 

娘には おとうさんも おかあさんも いなくて

ひとりぼっちだ ということが わかりました。

 

娘は おじいさんとおばあさんの うちの子に なりました。

 

おじいさんとおばあさんには 子どもが いませんでしたから

どんなに よろこんだことでしょう。

 

 

村の子どもたちも いっぺんで 娘が 好きになり

おじいさんとおばあさんの うちに あつまってきました。

 

 

 

もうすぐ お正月が やってきます。

 

おじいさんとおばあさんは 娘に 

きものでも買ってやりたい と 思いましたが

貧乏でしたので どうすることもできません。

 

ある日のこと

 

娘が

「これから はたを おりますけれど

 おっているあいだは 決して中を のぞかないでください。」

と いいました。

 

おじいさんとおばあさんは へんに思いましたが

「どんなことがあっても のぞきはしないよ。」

と 約束しました。

 

 

 

きいから とん

 

きいから とん

 

三日めに 娘は おりあがった布を もって

おりば から 出てきました。

 

おじいさんが 手に とってみますと

それは きらきらと 白く光るもようのある

たいそう うつくしい布でした。

 

「ほう なんと きれいな布だろう。」

 

すると 娘が

「これを 町へ もって行って 売ってください。」

と いいました。

 

 

 

おじいさんは 布をもって 町へ 行きました。

 

うつくしい布を みると

たくさんの人が あつまってきました。

 

ちょうど そこへ 

お殿さまが とおりかかられ

「これは りっぱなものだ。」

と いって たかいねだんで 買ってくださいました。

 

おじいさんは たくさんのお金に めを まるくしましたが

それで おみやげを たくさん買って 家に帰りました。 

 

 

 

あしたは お正月です。

 

布が たかく売れたので お米も お酒も買えました。

 

おじいさんとおばあさんは おもちを ついて

村の子どもたちに ごちそうしました。

 

なんと楽しい お正月でしょう。

 

 

 

しばらくすると

娘は また はたを おりはじめました。

 

そして また うつくしい布を おりあげ

おじいさんが 町へもっていくと 布は たかい値段で売れました。

 

すると 娘は また

きいから とん

と おりはじめました。

 

きいから とんとん

きいから とん

 

音は 休むまもなく つづいています。

 

いちにち ふつか と たちました。

 

おじいさんとおばあさんは ちょっと心配になりました。

はたを おっているあいだ 

娘は ほとんど おりばに とじこもったきりです。

そして 出てきた娘は だんだん やせていくようでした。

 

これは もう 三度めのことでした。

 

 

 

おばあさんが いいました。

 

「ちょっと のぞいて みましょうか」

 

でも おじいさんは

「決して のぞかないでください。」

と いう 娘との約束が ありましたから

 

「それは いけないよ。」

と とめました。

 

でも おばあさんは

「ほんの ちょっと だけですよ」

と いって 中を のぞいてしまいました。

 

 

 

おばあさんは

「あっ」

と いって 目をみはりました。

 

おりばの中に 娘のすがたは ありません。

 

かわりに 一羽のつるが

くちばしで 自分のはねを ぬき

それを 糸のあいだに はさんでは

はたを おっているのでした。

 

 

 

やがて はたを おる音が やみ

すっかり やせ細った娘が おりあがった布をもって

出てきました。

 

「おじいさん おばあさん

 私は 前に 雪の中 わなにかかったところを

 たすけていただいた つるです。

 ご恩を おかえししたいと思い 

 娘に すがたを かえていましたが

 本当のすがたを みられては

 もう おそばには いられません。」

 

娘は かなしそうに いいました。

 

 

 

おじいさんとおばあさんが どんなに とめても

娘は ききませんでした。

 

そうして みるまに つるに すがたを かえ

空に まいあがりました。

 

くるくると わを えがくと

こうー

と ないて 

夕ぐれの 山のむこうへと

とびさっていきました。

 

 

 

 

おわり